第二話:「戦闘」

 

「キミ・・・・・誰?」

「僕?       スプーン・・・・。スプーンだよ。」

 俺が恐る恐る聞くと、その悪魔は健気に首を傾けながら自分の名前を答えた。

「すぷーn・・・?  し、しゃべった!! しかも、何で俺の名前を知ってるんだ?!」

「しゃべるよぉ・・・。そりゃ勉強したもん。へー、やっぱりミットは僕が見えるんだー・・・。良かった。」

「な・・・」

俺は言葉を詰まらせた。というか絶句した。まぁ、こんな見たこともない生物がペラペラとニンゲンの言葉をしゃべるのも

あるだろうが、今までにこんなに親しく(なのか?)話してくれた事ってあまりなかったからだろう。俺はどちらかというと

いつも部屋にいて、小さい頃から本が友達で、あまりトモダチと呼べる人もいなかったし、遊んだりとかもしなかったから。

「僕が見えてるってことは正真正銘の『契約者』なわけだね!」

「けい・・・・?」

 青いそれは明るく次の言葉を発した。そういわれても自分には何のことだか分からない。まるで内輪話だ。

俺があきれていると、後ろからガサガサと草の葉をゆする音がした。すると、しなやかな身を低く構えて、一匹の猛獣が

俺たちの前に躍り出てくる。いや、現れたのは一匹だけではない。同じ姿が四方八方から、ゆっくりと月明かりに照らされ

ながら少しずつ姿を現す。その赤色の眼は、オレ達を縄張りから追い出すといわんばかりの、真剣で怒りに満ちた目。

・・・なんて運が悪いんだろう、俺。走って逃げてきたツモリが、自ら死を選んでしまう事になるなんて。

「グルルル・・・・・」

 猛獣は明らかに威嚇ととれる唸り声をノドの奥底から響かせていた。

「だれ?・・・・お友達?」

「そんなわけないだろ!!明らかに違うし!」

彼は緊張した場面で何故こんな言葉が吐けるのだろうと思うほど平然と、率直に口にした。そんな彼にただ俺は

再びあきれるしかなかった。目を泳がせるように色々な方向に向けると、その一匹の中に身に憶えのある獣がいた。

・・・・思い出した。

昼の狩りの時、重傷を負いつつも、この世を生き抜くために身を翻した『あの獣』だということを。その時の仕返しをここで

つけるツモリなのか、という考えが頭をよぎる。しかし、全方位囲まれた俺らにとって、昼のあの獣のように身を翻えそうとして

一瞬でも背を向けることがあれば、今度は間違いなく俺らの方がコイツらによってバラバラに切り刻まれてしまうだろう。

「どうするの?逃げるの?」

「この状況で逃げられたら、逃げてみろよ。」

小さな声で言う子竜に、俺は強気で吐き捨てた。

 

いや。『逃げられたら』じゃない。−逃げられない。−

そう。『逃げてみろ』では無く。−逃げたい。−

 

「そんなに弱気になっちゃダメだよ!契約者の決まり!」

「え?」

 どういうこと? 俺はコイツに強い言葉しか言っていない。そのツモリだったのに。なのに。

「ガァァァァァ!!!」

「ミット、危ない!!!」

気付けば、その猛獣の脚は止まる事は無く、俺たちに跳びかかる寸前まで来ていた。その恐ろしい顔をこちらに

向けながら。俺は腕で顔を覆った。と言っても所詮は人間の無駄で哀れな行為。

もう終わりだ。俺の最後は猛獣に八つ裂きにされて、この身体を自然の連鎖に捧げることになってしまうなんて。

 

    イヤだ。絶対イヤだよ。

 

その瞬間、俺たちの周りに閃光があふれる。それは、まるで白くて強い雷火のごとく。ゆっくりと眼を開ける。でも不思議と

自分がまぶしさを感じることはなかった。ただ、周りが白く、薄い膜に包まれているような感じだった。そしてその光の外には、

あまりのまぶしさに悶えている獣達の姿。

「・・・・ット!・・・の後ろに乗れ!」

 隣にいるのは。。。光に包まれた巨大な黄金の竜? あの二色の子竜の姿は何処にも無く、どっしりと、しっかりと、

その竜は俺の横に立っていた。俺は言われるまま、その隣にいる竜の背中に飛び乗る。

俺に触れたその肌はニンゲンの肌とも、あらゆる獣の肌でもない不思議な感触。でも体温と言うべき暖かさは感じる。

「行くぞ!!」

その竜は俺に言うと、背中の羽を動かしつつ、ひざを動かして少ししゃがみこんだ。俺は一瞬の恐怖感を覚えて、

強くその竜にしがみついていた。

次の瞬間、下の地面が放射状に割れ、何かに打ち出されたようにその竜は空に向かって加速していく。さっきまでいた

地面がどんどんと小さくなっていく。風は俺の髪や身体を顔をなでるように通り抜け、身につけている衣服はパタパタと

音を立てている。

そして上を見上げれば、満月はただひたすら鈍い光を発している。先ほどの恐怖で体の震えが止まらない。

 

もう少し、この飛行を続けていたいと思った。

さっきの現状から逃れるための飛行を。

 

心の中でそう願っている。