第三話:「異変」

 

朝。すがすがしい夢からの目覚め。

鳥のさえずりや窓からのやわらかい木漏れ日は、透明なガラスを通り抜けて俺の顔に差し込んでくる。

眼を開けば、俺は自分の部屋のベッドに横になっていた。そして机の上には昨日の夜、俺が持っていた紙袋が

無造作に置いてある。夢だったのだろうか?と半ば夢心地のような不思議な気分を伴いながら、ベッドから重々しく

起き上がろうとした時だった。

「あ、起きた?」

 そこには満面の笑みを浮かべながら、背中から羽音を立てて俺の周りを飛んでいる二色の子竜の姿があった。

俺が起きるのを心待ちにしていたようだ。

「うわぁぁっ!!」

俺はびっくりしてそのままベッドに倒れこんだ。

「あ、ごめんごめん、驚いた?でも、ここまで運ぶの大変だったんだからねー。」

「す、スプーン・・・・キミってやっぱり夢じゃなかったんだね。」

「何言ってるの?僕はちゃんとここにいるじゃない。」

夢ではなかった。もうすでに繰りされる毎日でないのか。そして、相変わらず昨日言っていたように平然と、率直に

口に出した、まるで空気を読まない無邪気な子供のようなその言葉。

「そういえばキミって何歳なの?何処から、何のためにここに来たの?」

「う〜ん?」

少し質問が広域過ぎたかもしれないと思いながら、俺は彼に質問をしてみる。すると、彼は少し首を傾けつつも。

「あ、僕は70歳。大体ミット達の歳で言うと10歳ぐらいかな。んー、ちなみに『竜界』ってところから来たんだよ、僕。」

「竜界?」

「そう。ミット達の住んでる世界とはまた別の世界。みんな竜なんだよ、たのしいよーw

 竜界・・・・確か本で読んだことがあるけど、それはこのセカイとはまた別にソンザイする、幻の世界・・・。

700年以上生きるとされる竜は、人間の歳の約7分の1のスピードで歳をとる。そして何よりも人間のセカイの誰として

行ったことのない未知のセカイ。まさかそんな幻の世界から来た生き物が、俺の目の前に形を成して存在している。

とても今の俺には考えられないことだった。

「そういえばこの家ってミット意外誰もいないよねー・・・」

 今度は子竜が俺に聞いてきた。知らないことを聞きたがるのは良いことだが何気なく聞いたこの質問は、

俺の過去を思い出させるものだった。

「出て行ったんだ、昔に。全員・・・・。今は違う人の家なんだよ。その人に住まわしてもらってるんだ。今は出かけてて

いないみたいだけど。というか俺、役立たずだからさぁ。」

「あ、ゴメン・・・・。いけないことを聞いたみたい。」

「んーん、いいよ。ここの家に来たの初めてなんだし。」

俺はベットの上であぐらを組んで、過去のことを忘れようと首を横に振りながら、気づかれないようになるべく明るく

子竜に話しかけた。

「そういえばさー、昨日言ってた契約者って何?」

「私から説明しよう。今のスプーンにはちと難しいことだ。」

「あ、プスーン。聞いてたんだ。」

「うわぁぁぁ!!」

 俺が昨日の事について聞こうとしていた時だ。いきなり奥の方から声がした。その声は明らかにしゃべるはずのない物、

子竜が持っていたあの杖のようなものから聞こえたのだ。

俺はびっくりしてそのままベッドにまた倒れこんだ。

そしてその杖は俺に語り始める。

「私の名はプスーン。彼(スプーン)の保護者のような物でな。この通り意思を持っておる。ミットと言ったな?契約者とは、

一心同体のパートナーのような関係を持つ者のこと。そしてこの契約者は、竜と運命の鎖でつながれた者と、契約竜との

コントラクト(契約)で成り立っているのだ。 」

「コン・・・・ト・・・・ラクト・・・・?」

「そうだ。第一に契約者は竜の姿が見えなければならない。その能力がないと、竜はただ何も見えない。見た所によると、

このセカイにいるニンゲンの9割以上はこの能力はない。」

「9割以上・・・つまりほとんど・・・・?」

「そうだ。見えない者はそれを霊的な『タタリ』などであると勘違いするか、ただ気付かずそのままにする。そして、

見える者であり、その竜と何か運命的なものがあると、コントラクトが成立する。一生涯を供にするものであると。

ミットよ、この意味が分かるか?」

「んー、なんとか・・・・。」

 ただ俺はその話に食い入るように聞き入っていた。決して本にはなかった情報がいとも簡単にその

セカイからの経験者の口から語れているのだから。

信じられない・・・この一言だった。

「俺はスプーンが、つまり竜が見えてるってことは、運命であって、契約が結ばれたってことなのか?」

と俺が身を少しプスーンに寄せて尋ねれば。

「決してそうではない。なぜならば・・・・・・」

と、プスーンが言いかけたときだった。ゴゴゴゴッ!という轟音とともに、すぐ目の前にある村から煙が上がる。

小高い丘の上にある俺の家からはその様子は手に取るように目に入ってくる。今そこにある光景の視覚のままを

受け入れることすらできない。そう。目の前のことも、今、村で起こっていることも。

「ちょっといってくる!!!」

「あ!待って!行っちゃダメだ!!   ミット!!!」

 

俺は家を飛び出してひたすら走る。なぜこんなことになったのか、一体何が起こっているのか考えながら。

俺は走る。煙だらけになった町を眺めつつ、若葉色に染まった丘の坂を駆け下りて。

そして、これから先に待つ物は何なのかもっと深く考えるべきだったと後悔しながら・・・・・・

 

俺はただ、走る。