第四話:「始まり」
俺は家を飛び出してひたすら走った。長く緩やかな坂を駆け下り、そして俺は息を切らせながら街に入る。
そこには建物からは次々に煙が上がり、何もしていないのに、足をすくわれたように、次々と茶色い煙を出しながら
倒壊していく村の光景。
「タタリだぁ!!」
「神がお怒りになられたのかー!?」
そんな言葉を口々に叫びながら荒れ狂う異様なモノから逃げる人々を、俺はただかき分けながらその破壊の元を
ただ懸命に追いかけていく。
自分でもなんで走っているのか分からない。体が意思とは反して、前に、前にと動こうとする。命知らずのバカ野郎
と言われても、この行為が神の逆鱗に触れてもいい。ただ、この先に何があるのか、その正体は一体何なのか。
これについて行けば、その姿を突き止めれば、何かが分かるような気がして。
俺は暗く曲がりくねった路地の先にかすかな光がさしているのが見えた。その光を目指して、狭い路地から一気に
広い場所に飛び出した。そこは村の中心にある広場。そこで俺はそれの全姿を目の当たりにした。
広場にたたずむ『巨大な竜』を。
「何だよあれ・・・・・。」
絶句。 俺はただそうするしかなかった。その姿はさながら巨鳥のような、あの子竜と同じ二つの色を持つ竜。そして
何倍はあろうか、とても大きな身体。上半身は明るい碧色で、下半身は鮮やかな青色に染まっていて、体のいたるところに
傷のような灰色の模様が刻み込まれていた。
「誰だ・・・・・。」
その竜は一旦動きを止めると、俺をジッとにらみつけた。その目は冷たく、鋭く、黒く。恐れをいだくほどに。
俺の身体は蛇ににらまれた蛙のように、硬直して動けない。
「俺はミット・・・ミット・スティルハートだ!」
「ふっ、下等な人間どもめ・・・・俺にそんな口の聞き方をするとは俺たちもなめられたもんだな。それに貴様、竜が
見える能力をもっているのか。」
大きく声を張り上げて俺は名を答えると、その竜は俺を見て少し嘲笑った目に変わった。
俺はただ視覚や記憶はすでに影を潜め、恐怖感に支配され、ただ言われたことに答えるために声帯を震わせて声に
出す事ぐらいで精一杯だった。もうただ「言うモノ」に変わってしまっている。
「一体・・・・。何のためにこんなことをする!」
「何のため・・・・?所詮お前には関係のないことだ。お前には見えるかもしれんが、ある竜を探している。そこをどけ!」
「ダメだ!!!これ以上・・・・この街を破壊させるわけにはいかない!!」
「ふ、お前の町じゃあるまいし・・・お前にこの村を守る使命があるとでも?」
俺は竜に立ちはだかるようにして手前に立つと激しく言い立てた。しかし、巨竜から帰ってきた言葉は、まるで身体を
弓で射抜くように、俺の胸に激しく突き刺さる。
「お前に長くは付き合ってられん・・・・・・強行手段だ、仕方あるまい。」
その巨竜は片手を上に振り上げるとテニスのスマッシュを打つようにして俺に向かって腕を振り下ろした。すると、
身体に強い衝撃のようなものを受け、気付くと、一瞬にして自分の身体はすぐ後ろの瓦礫の山に深くめり込んでいた。
「これが『風』の力だ。」
そう巨竜は言った。相変わらず俺を冷たい目で見つめている。俺は立ち上がろうとしても身体を起こすことが
できなかった。背中にはうっすらと血がにじんで。
あぁ、ニンゲンというのは無力なのだろう。ただ言うことだけが先走りして結局これだ。一人ではただどうすることも
できない哀れな者。こうして動けなくなっている。
そのときだった。
「ミット!!大丈夫!!??しっかりして!!」
俺の肩に触れる小さな青い手。ソレは俺の上体を少しだけ起こし、うな垂れている俺に言う。
俺は小さく返事をすると、頭を縦に動かした。スプーンはそれを了解すると巨竜のほうを向くと驚いた。いや、驚愕した。
「な!!!・・・・・ファルケン!!どうして!!」
俺を起こした後、彼はあの巨竜の名を呼ぶ。ファルケン。確かにそう聞こえた。
「ふ、とぼけるな!お前を連れ戻しに来たのだ!どうあがいても、俺はお見通しだ!それに、お前の罪は重いんだぜ!
竜界に戻ったら即刻処刑される事になるだろうな!」
「・・・・・・・・・・そんなの・・・そんなのヤダよ!!僕はミットと・・・契約を結んだんだから!!」
「な・・・・ニンゲンと、コントラクトだと・・・・下等な! 貴様!!・・・それでも防衛策のつもりか!!!」
俺は意識がもうろうとする中、自分の目の前で大声で話し合われていることの内容は俺に到底理解できるもの
ではなかった。
ファルケンはなぜここにいるのか
スプーンはなぜこの竜を知っているのか
そして・・・・・・。俺はなぜここにいるのか。
「ふ、ソレならば、その契約者を抹殺するまで!!【ディストリクト・ウィンド!!!】」
ファルケンはさっきの時よりも多めに腕を振りかざし、×印を絵描くように両腕を大きく鎌のように振り下ろす。
まさにそれは名の通り、空気をも「分断する風」。
こんなのに吹き飛ばされたら、俺は間違いなくひとたまりもない。
でも、動くことすらできない。ただ恐怖感がつのっていく。悲しみがこみ上げてくる。
(動け!動けぇぇぇ!!!)
刹那。
目の前を黒い闇がおおい尽くす。あぁ・・・・ついに俺も死んだか・・・・
しかし、周りは先ほどと変わらない破壊しつくされた街が見えていた。そして背中の激痛も依然として残っている。
そう、俺はまだこの世に魂と肉体があってちゃんと生きている。そして気付く。俺の目の前にあるその闇は、
何かの『影』であると。そう、小さい影。
さっき俺の頬に付いた、この『赤い液体』は何なの?
そして、俺の目から一筋流れ出る、この『透明な液体』は、何なの?
ナゼ、こんなコトにならなければいけないのか、理由を教えて・・・・。