第五話:「この世の掟」

 

「ぐっ・・・・・。」

「スプーン!!!!」

 俺はとっさに叫んでいた。背中に俺よりも重度の怪我を負った、勇ましき子竜に向かって。

彼の小さな背中の傷からは全てで尽くしてしまうのではと思うぐらいのおびただしい量の紅の液体が身体を伝い、

地面を痛々しく染めている。しかし、それでもスプーンは必死を俺を守ろうとしているのか、攻撃から身を守る盾

のように、絶対に俺の前から動こうとはなかった。

「ナゼだ!!何故お前はそいつを守る!!???俺たちをこのセカイから追放した種なのにだぞ!!!??」

 そうだったんだ。ここはもともと俺たちのセカイではなかったの・・・?そこへ俺たちが勝手に町を作って・・・

「・・・・そんなことは・・・・。関係ないよ・・・。【イマ】だろうと【ムカシ】だろうとね・・・・。それにミットは確かに

ニンゲンだけど、それとは全く関係ないんだ・・・そして彼は・・・・契約をするコントラクター(契約者)だから・・・・・。」

 スプーンは激しい背中の痛みを我慢しながら、二色の巨竜に向かって一語一語声に出す。

「大丈夫・・・・・みっとは・・ぜったいに・・僕がまもるから・・・・ね・・・」

「スプーン!そんなことしたら傷口が・・・・あっ!」

もういい、と俺が止めようとしても時々微笑を浮かべながら、子竜は小さくも何かを声に出そうとしていた。

そのとき、ドサッと音を立てて、俺にもたれかかる様にして力尽きた。背中の出血はひどく、まだ息はあるが、

その呼吸や脈拍は次第に弱々しくなっていく。

「ふ、生意気な。俺の攻撃を邪魔したからだ!自業自得、おかげで二度手間が省けた。それではスプーンには

竜界ではなく、このセカイで死んでもらおう。【竜界のオキテ】を破った罰としてな。」

「【オキテ】・・・・・だって・・・?」

「そうだ。コイツは『竜界を捨てた竜』!!」

 竜界のオキテ・・・・この人間のセカイにもあるように、竜界にも当然オキテというものがソンザイするのだ。

ルール、決まりごと、約束事が。

でも、俺の前に倒れている小さな子竜を見る限りでは、そんなオキテを破るようなきっかけも、罪もあるはずが

ない。いや、むしろなぜ故郷であるはずの竜界を捨ててまでこっちに来なければならなかったのか。

「そんなはずはない!!」

 俺は巨竜に向かって断固と否定を繰り返した。しかし、巨竜にはそんな言葉は届くわけもなく、無情にも強い

言葉で送り返される。

「ふ、お前にこいつの何が分かる!・・・・まだ『契約』も口約束に過ぎないお前達が、何故あたかも『運命の者』

であるかのような態度を俺に取る!・・・まぁ、いい。死ぬ前に一つお前に本当のことを教えてやろう。こいつは

もともと成体であるはずの竜だったのだよ!」

「せ、成体?」

「そうだ。つまりコイツは元来大人の竜。それに竜は人間界には断じて立ち入ってはならない事になっている。

しかし、そんな姿に化け、故郷を裏切り、この薄汚れた人間界に逃げ込んだのだ!」

 もともと彼は「オトナだった」ってどういうことなのだろう、それに何故この姿になってしまったのか。俺の中の

疑問は増えるばかりだった。

「そんな・・・。スプーンにも何か理由があるんじゃないか?!それなのに勝手に捨てたとかいうのは変だ!」

黙れ!もはや逃げ出したとしか思えない奴に今更そんな事を聞いてどうする?!それならば、そいつごと始末

することの方が簡単だろう?!言い訳などただの嘘の寄せ集めに過ぎない!」

 その二色の巨竜は狂おしいほどの怒った目をして俺に向かって言った。でも俺はただ怯えながら、その事について

否定を繰り返すしかなかった。

よほど俺のそばに横たわっているこの子竜のした事が許せないのか、それとも・・・・何かまた別の・・・。

 

「これで最期だ!お前らを一瞬であの世に逝かせてやるよ!【ディストリクト・ウィンド!!!】」

 

気付いた瞬間(とき)には、目の前に再びあの『死の恐怖』が迫っていた

誰も俺を守ってくれる奴も、モノもない。今度こそ俺は

 

−切り刻まれる。−

 

  しかし一瞬にして俺たちは光に包まれた。

『また』だ。昨日の夜に感じた、あの聖なる光。でも、何だろう、今度は明らかに何かが違う・・・・。

攻撃を仕掛けようとするファルケンの手が、光のよってピタリと止まる。しばらくすると、辺りにあるやわらかい光が

おさまって、景色がはっきりと見え始めた。そして俺の目の前には黄色く長い尻尾に青い身体が広がる。何か見覚えは

あるけど、その体はの頭は見上げなければならないほど巨大で、数メートルぐらいの青と黄色の巨竜の姿があった。

背の翼は大きく発達し、そして腕や翼には黒いベルトのようなものをつけ、目はキリっとつり上がり、前にいる碧の

巨竜の姿をただ凝視していた。

 

俺はそれが「スプーン」だということにすぐに気付くことができなかった。

 

「久しぶりだな・・・・ファルケン・・・・。」

 

青い巨体がゆっくりと前に動き出した。